Aminosäureがsichになるまでの間に考えたこと

本などをきっかけに考えたこと。

石の声

石井冴句集「石の声」

今更ながら感想をば。


・大いなる埃まみれの蝿叩
"まみれ"がそう感じさせるようにただの薄汚れた蝿叩であると同時に、埃の堆積が時間を感じさせる大いなる蝿叩でもある。

・でで虫の躁の始まる兆しかな
躁って虫偏だ。のっそりしたでで虫と躁。嵐の前の静けさのような緊迫感。

・ふんわりと個人に戻る昼寝覚
寝ているときは集合的無意識に帰っているのだろうか。

・考えて歩くライオン鰯雲
動物園のおりの中のライオンだろうか。行ったり来たりする姿は確かに考え事をするようだ。
鰯雲はおりの外の人物には見えているが、ライオンからは見えていない気がして、ライオンの姿や考え事とあいまってなんだか切ない。

・毛玉取る側頭葉を休ませて
毛玉を取るのには言葉は要らないですね。

・寒鯉の動きしあとの水の穴
"今"と思ってつかまえた一瞬はもう過去になる。"今"はどこにあるのだろう。
時間は私を魅了する。
この水の穴はいつまでも句の中にあり、しかも前後に時間は流れていると思う。

・セーターや生まれ変わりし首を出す
小さいとき考えていたこと。
着替えで視界が遮られるたびにさっきまでの世界は消え、記憶共々新しい世界に切り替わる。
世界5分前創造仮説みたいなこと。
この句はそういうことじゃないかもしれないけど、思い出した。

・校門の一分間の春の雪
雪の校門を、ショートフィルムを編集するみたいに任意の一部を切り取ったと読んだ。



以下の句も好き。


雛壇の裏の時空に何もなし
山椒魚億年水を信じたる
冬の日を掬う駱駝の睫毛かな
春夕べ酸素の音を聞いている
触ってもよいまんじゅうひとで夏休
片耳は生者の声を籠枕
楓の木を赤く見るため後ずさる
遍歴の途中鈴虫飼っており
頭からやわらかくなる雪だるま